統合失調症

病態

統合失調症とは、どんな病気でしょうか?
妄想、幻覚、思考のまとまりがなくなるとか、情動の表出が欠如するとか・・色々と書いてありますが。
では、統合失調症を一言で表すとするなら?
本質と言うのは、たいてい一言で表せるのです。だらだらとした冗長な文言は、本質を意味はしません。
統合失調症の本質というのは、上記のいずれでもありません。

『統合失調症の本質は自我障害です』
なんだか、わかりにくい表現です。
言い換えます
『統合失調症は、自分の考えなのか他者の考えなのかわからなくなる』
もっと端的に言うなら、
『自分なのか他者なのかわからなくなる』 
より本質的には、『私という基盤が揺らぐ』 です。

私たちは、ある程度は「自分」「他者」を区別して生活していると思います。
その基盤、前提となる、「私」なのか「あなた」なのか「第三者」なのか、『私と他者の区別がつかなくなる』、より本質的には『私という基盤が揺らぐ』というのが、統合失調症の病理です。

自分という基盤、前提が薄れたりなくなると、どういうことが起こりますか?
この問いに答えるには、
まず、私たちがどのように生を営んでいるのか、みてみましょう。

こちらは、国際的な精神疾患の診断マニュアル(DSM-5)に準拠して、私が描いた模式図です。
文章で表現するなら、仮に、このようになるでしょうか・・
“私は、環境のもとで暮らし、物を使い、人と交流し生活を営む。言語を介し、また身振り手振り、コミュニケーションを取る。注意を向けて考えたり、未来をイメージし計画を立てる。生の営みの中、情動は揺れ動き周囲と感情を共有し、時に未知への不安、目の前の恐怖に葛藤する。こうして、日々、ある気分に包まれ過ごし、記憶が生まれ、所有の概念もできる。“

統合失調症では、『私という基盤が揺らぎ、私と他者の区別がつかなくなる』
『私と他者の区別がつかなくなれば』どうなりますか?
・私の考えなのか、他者の考えなのかが区別が付かずわからなくなると、自分の考えがあたかも他者からの声のように聴こえてきます・・・幻聴(多くは批判的な内容です)
・私の考えなのか、他者の考えなのかが区別が付けずわからなくなると、考えを吹き込まれるように感じたり、自分の考えを奪い取られるように感じたり、自分の考えが勝手に伝わるよう感じたりします・・・思考吹入、思考奪取、思考伝搬
『私という基盤が揺らげば、どうなりますか?』
・本来、私という基盤のもとに働く感情が鈍くなります・・・感情鈍麻
・私という基盤が揺らげば、その私の思考やイメージの働きも突如止まります・・・思考途絶  ・あるいは、勝手に考えが浮かんでくるように感じます・・・自生思考
・私という基盤が揺らげば、物事に注意を向けて、計画を立てることもできなくなります。
・発症前に学んだ言語や概念は、比較的保たれます。しかし、上記のように被害的な内容の幻聴であったり、感情の鈍麻や思考の障害があり、他者との意思疎通はうまく図れず会話はまとまりがなくなります。
・統合失調症の方は、一見、不安がないかのように、恐怖を克服しているかに、超絶的に見えることがあります。なぜなら、不安や恐怖を抱く主体である私と言う前提であったり、基盤が揺らいでいるからです。主体である私が希薄である以上、その主体が抱く不安や恐怖もないかのように見えるのです。
・私が私である基盤が揺らぐと、どう動いたらいいのかわからず動きが止まってしまう、あるいは動き過ぎ興奮に至るなど、環境との接触もうまく取れなくなります。

これらの結果、食事も不規則でお風呂にも入らない、外に出ず自宅に引きこもるなど、生活全般にわたって支障をきたします・・・陰性症状と言われます

原因

脳の神経細胞は、神経伝達物質という物質を介して働いています。その神経伝達物質の一つであるドーパミンを介した神経細胞の働きが、脳のある部分では過剰になっており、また、他の部位では弱くなっていることが、解明されています。ただし、ドーパミンに関する神経の不具合が、統合失調症の病態のすべてを説明するものではありません。

治療

統合失調症は、上で述べましたように、私が私であるという基盤が揺らいでくる→そうすると、自分なのか他者なのかがよくわからなくなってくる→自分なのか他者なのかがわからなくなる→感情や思考の働きが損なわれる、食事や入浴など生活全般にわたり支障をきたす、という具合に病状が進行します。
では、どういうタイミングで、治療介入すればよりよいのでしょう?それは、私が私であるという基盤が揺らいでくるその前兆を示す時期で、前駆期と言います。前駆期には、私が私であるという基盤を完全に失っているわけではありません。ですから、感情や思考の働きも、ある程度は保たれてはいるんだけれど、なんだか気持ちが不安定だとか、会話の内容がちぐはぐなことがあるなど、誰しも経験してもおかしくはないような症状がみられます。一時的なもので回復すれば心配ないでしょうが、症状が続くようであれば、早く治療を開始するほど、よい経過をたどると考えられています。
治療に関しましては、お薬の説明をさせて頂きまして、ご希望があれば、ドーパミンを介した神経の働きを整えるお薬やその他のお薬を用います。また、心理社会的な治療を組み合わせます。自らや周囲が治療の必要性を理解して積極的に治療に参加することで、よりよい治療結果につながります。